「須賀敦子の世界展」
第16回図書館総合展に参加するため,11月7日に横浜まで行ってきました。そのことは機会があればまた書くことにしまして,今日はその翌日のことを少し書きましょう。
11月8日(土)の午前中,神奈川近代文学館で開催中の「須賀敦子の世界展」を観て来ました。
遅咲きの「知る人ぞ知る」翻訳家・エッセイストから,名文家として広く名前が知られるようになって,さあこれからというときに病に倒れた方でした。翻訳を除き,生前出た本は5冊だけだったんですね。
これは遺族の協力なくしてはできない,そんな展示で,とにかく筆まめだったという須賀敦子さんの書簡がこれでもかと並べられています。知的で読みやすい筆跡でしたが,何しろそれぞれの便箋にびっしり書いてあって(絵葉書の中には収まらなくて,脇の方に書き足して文章の読み順に番号を振ってあるものがありました),これを読んでいたら時間がいくらあっても足りない。書簡集は河出書房新社から出ている『須賀敦子全集』の第8巻に収められているのですが,近い将来補巻が必要になるのではないかしら。
これだけのものを並べるだけでも大変な努力が必要だったでしょう。僕の足でも拝観時間が1時間を超えました。内容以前に,まずはこれだけの展示を見せていただいたことに感謝なのです。
面白かったのは,須賀さんが早い頃からワープロやパソコンで作品を書いていたという話。その原稿が収められているというフロッピーディスクの展示があって,3.5インチどころかペラペラの8インチフロッピイが展示してあるのw そんな時代なんですね。
須賀さんの文章は読みやすいのですが,わかりやすくはないのですね。扱ってる内容のパースペクティブが広大で,読む側にもそれなりの知識が必要になってくる,という。目の前にあるもの/ことだけではなく,その膨大な背景を見通せるだけの素養がないと,本当のところを理解するのは難しいのだろうなあ,と思わせます。
「ぶれない」文章を書く方でした。一生に一度でいいから,須賀さんのような硬質で芯の通ったぶれない,であるにもかかわらずとんがったところを感じさせず読み手の頭のなかにすっと入ってくる,そんな文章を書くのが目標です。どこまでも遠い,遠すぎる目標ですが。
これから須賀敦子さんを読もうと思う方には若き日の読書体験を通じて本の魅力を解読するエッセイ集『遠い朝の本たち」をお勧めします。ちくま文庫に入ってますので,お求めやすいです。文庫版でも出ている『須賀敦子全集』だと第4巻に書評集『本に読まれて』(単体では中公文庫)とともに収められていますが,初出が筑摩書房なので。
相変わらず,嫌いなもの駄目なものについては豊富な語彙を駆使できるのに,好きなもの大切なものについては,使える言葉が少なくて,何を書いても陳腐な表現になってしまいそうです。陳腐な表現は使うまいと,須賀さんなら推敲を徹底したものでしょうに……。書籍化するために,初出雑誌のコピーに本人があちこち手を入れたものが残されており,それも展示されていました。
11月24日(月)までです。お時間のある方は是非おいでくださいませ。
https://www.kanabun.or.jp/te0173.html
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