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2012/06/16

武雄市立図書館への「Tカード」導入に関する雑感

以下の文章は知人の課題に応えるために5月中に書き上げて,提出したものです。このところ,ある運動家から僕に向けられている馬鹿馬鹿しい誹謗への返事に替えて,文章がこなれていなかった幾つかの箇所を手直しして(論旨に変化はない)ここに載せます。お時間のある方に読んでいただければ幸いです。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

2012年5月4日に佐賀県武雄市の樋渡啓祐市長は記者会見し,武雄市立図書館の今後の運営についてカルチュア・コンビニエンス・クラブ(以下「CCC」とする)を指定管理者とする旨を発表した1)2)3)。指定管理者を導入することなどは特に目新しいアイディアではないが,注2)で8番目に挙げられている「Tカード」及び「Tポイント」の導入は,残念ながら武雄市立図書館のみならず,公共図書館の今後の存立をも左右することになる,重大な論点である。

以下に,「Tカード」及び「Tポイント」の導入が公共図書館の運営に,どのような影響を与えることになるのか,また,その影響が公共図書館における「図書館の自由」の侵害にとどまらず,広く行政と私企業が日本国憲法が保障する「思想信条の自由」を侵害する可能性が非常に高いため,公共図書館におけるTカードの導入が非であることを論じる。

まず「Tカード」および「Tポイント」がどのようなものであるかを見てみる4)。もともとCCCが経営しているレンタルビデオ店TSUTAYAのレンタル会員が持っているカードにポイントを付けていたものを,2003年にCCCがカードの顧客基盤を提携企業にも開放し,2004年4月には提携企業間での共通のカードとポイント制度としたものである(共通カードとポイントの導入時に,CCCはポイントカード事業を子会社として分離している)。共通のカード及びポイントを企業が導入する理由には,従来より各店舗にて行われてきたポイントカード制度が必ずしも販促の有効な手段となりえなくなりつつあったことに加えて,過大なポイント付与に対して公正取引委員会が警告を出したことで,従来型のポイントカードが勢いを失ったことが上げられる。その代わりとして,企業はポイントカードを利用して会員の購買情報を分析し,新たな販促や商品のラインナップの充実に生かしていく「データベースマーケティング」の考え方を取り入れ,異なる業種の提携による共通ポイントの導入で大規模な顧客の囲い込みを図ろうとしている。その代表的な事例が「Tカード」5)であり,「Pontaカード」6)である。

上記で説明した機能を持つ「Tカード」を,公共図書館に資料貸出用の貸出証として導入することは,「図書館の自由」の問題にとどまらず地方自治体,あるいは政治家,ひいては国家権力による「思想・信条の自由」への介入を許しかねない大きな問題をはらんでいると筆者は考える。確かに「個人情報」の捉え方は常に一律ではなく,政治的,社会的な変動に合わせて変化している。その変化を吟味しながら「図書館の自由に関する宣言」も改訂されていく必要があるのは間違いない。

しかし,そのことと日本国憲法が保障する「思想信条の自由」への,行政の介入の余地が「Tカード」の導入によって発生することは,問題点が本質的に異なる。企業による「Tカード」導入のポイントが「ポイントカードとか、顧客情報の管理とか、もう自社でやる時代じゃないと思うんですよ」7)という考え方である以上,図書館活動を通じた個人情報の集約と管理,そして活用が,さして公共図書館運営のノウハウがあるとも思えないCCCが公共図書館の指定管理者事業に参入する,大きなメリットであることは疑いを差し挟む余地はないと考えられる8)。

つまり,公共図書館における貸出履歴もまた,CCCにとっては他の提携企業から得られる顧客情報と選ぶところはなく,貸出履歴から得られた読書傾向と,他の提携企業での顧客の購買情報を名寄せし照会することによって,「データベースマーケティング」を展開する上で貴重な情報を囲い込むことが可能なのである。この可能性は,Tカードを公共図書館の貸出カードとして利用する限りはつきまとう。公共図書館が住民基本台帳カードを貸出カードとして利用する場合は,ICカードの容量内での棲み分けと暗号化によって名寄せの危険性を防止する配慮がなされていた9)が,Tカードにおいてはそもそも名寄せと,その結果得られた情報に基づく販促(これがいわゆる「レコメンデーション」である)がカード導入の目的であるのだから。「図書館の自由に関する宣言」においてさえ,「憲法第35条にもとづく令状を確認した場合は例外とする」10)規程が盛り込まれている現状で一旦緩急あった時,一私企業のカード情報が内務権力によって開示を求められない可能性に賭けることは難しいだろう11)。

他にも「Tカード」の排他的な導入が地方自治体による一私企業への便宜供与に当たるのではないか,またそもそも武雄市とCCCの指定管理者委託の契約が一般競争入札ではなく随意契約であることの是非など,疑問点はいくつも存在する。果たして6月に開催される武雄市議会では,この問題について何が語られることになるだろうか。


注記
1)
武雄市立図書館、ツタヤに運営委託計画 21時まで開館/佐賀のニュース :佐賀新聞の情報サイト ひびの
http://www.saga-s.co.jp/news/saga.0.2199763.article.html
波紋広げる武雄市図書館のツタヤ委託計画/佐賀のニュース :佐賀新聞の情報サイト ひびの
http://www.saga-s.co.jp/news/saga.0.2204442.article.html
武雄市図書館運営委託 「質」保つ根本議論不可欠:佐賀新聞の論説 :佐賀新聞の情報サイト ひびの
http://www.saga-s.co.jp/news/ronsetu.0.2208678.article.html
佐賀新聞による一連の記事と論説は,図書館業界人から大きな支持を集めているが,筆者はその問題意識の「古さ」が気になってあまり評価できない。何よりこの問題は一個の公共図書館の枠を越えた「思想信条の自由」を問う問題なのであって,指定管理者制度がもたらした問題ではない。日本図書館協会による時代遅れの見解を持ちだして指定管理者制度を云々する一部の論調には違和感を感じる。日本図書館協会による見解は1990年代より打ち出されてきたが,それに基づく反委託運動は敗北の連続であったことが,現在の運動家からすっぱり忘れ去られているのはどういうことか。識者から日図協の論理における不備を指摘する反論が出るのも予想された事態であるにもかかわらず,運動家からは有効な反論が出てこない。指定管理者委託に問題を見出すのは運動家の自由だが,指定管理者に拘泥し武雄市長のブレーンや支持者に付け入る隙を与えるのは,まさに利敵行為と呼ぶに相応しい対応である。
2)
佐賀県武雄市とカルチュア・コンビニエンス・クラブ株式会社が同市図書館・歴史資料館の企画・運営に関して基本合意を締結 | カレントアウェアネス・ポータル
http://current.ndl.go.jp/node/20784
3)
武雄市とカルチュア・コンビニエンス・クラブ株式会社の武雄市立図書館の企画・運営に関する提携基本合意について ニュースリリース|CCC カルチュア・コンビニエンス・クラブ株式会社
http://www.ccc.co.jp/company/news/2012/20120504_003337.html
4)
以下「Tカード」などの解説には,次の文献を参考にした。
ポイントカード 進化するポイントカード--異業種融合、顧客別の販促に威力, 日経ビジネス, 1256, 106-108, 2004.8
5)
TポイントとTカードの総合サイト[T-SITE]
http://tsite.jp/
6)
共通ポイント Ponta [ポンタ]
http://www.ponta.jp/
7)
囲い込み期待は禁物 2軸が突破口--新日石、全日空、高島屋の新地平 (特集 これでもデフレ脱却? 見えない値下げ--電子マネーがあおるポイントバブル), 日経ビジネス, 1338, 36-38, 2006.4
8)
指定管理者制度に参入する企業の利益が必ずしも多くないことについては,TRCの石井昭会長が事あるごとに発言している。例えば次の記事。
石井昭ほか:TRC・図書館流通センターはなにを考えているのか[インタビュー]図書館をサポートする仕事, ず・ぼん, 11, 16-39, 2005.11
9)
西河内靖泰, 三村敦美:住民基本台帳(住基)カードはただの板, みんなの図書館, 321, 67-77, 2004.1
10)
図書館の自由に関する宣言
http://www.jla.or.jp/ibrary/gudeline/tabid/232/Default.aspx
11)
1995年3月20日に発生した地下鉄サリン事件の捜査の過程で,警視庁が捜査令状を示して国立国会図書館から利用記録を押収したことがある。このことについては以下の文献。
日本図書館協会図書館の自由に関する調査委員会関東地区小委員会:裁判所の令状に基づく図書館利用記録の押収--「地下鉄サリン事件」捜査に関する事例, 図書館雑誌, 89(10), p808-810, 1995.10
図書館問題研究会国立国会図書館班:地下鉄サリン事件と国立国会図書館--利用記録の押収について, みんなの図書館, 220, p62-65, 1995.08

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