私立図書館の歴史的位置付けについて
ご無沙汰をしております。
2月末から4月末にかけて,10000字の依頼原稿を書いていたため,更新が滞っておりました。原稿執筆にご協力いただいたみなさまには御礼申し上げます。依頼原稿は落とさず無事に提出したわけですが,これが無事に原型のまま掲載されるかどうかはまた別の話かも(^^;)。どうなりますやら。
少し休んだら,次の草稿にとりかかります。
閑話休題。
今年の1月にこんなことを書きましたが,上記の依頼原稿を書いているうちに少々問題意識が変化しまして,現在は「公」と「官」と「私」の関係と「図書館」,なかでも公共図書館と「公」「官」「私」をめぐる意識とか制度とか,について少し考えています。これは,このところ立て続けに建築関係の書籍を読んでいるからでもありますが,「公」と「私」が重層的に融合する「場所」について,であるとか,「公=官」ではないことと公立図書館が公共図書館に優越すると考えることの妥当性についてであるとか,現在と切り結ぶための論点はいくつもあると思うわけです。
今日読んでいる「『場所』の復権」(平良敬一編著/建築資材研究社/2005.12)で,鈴木博之氏が興味深い視点を提供しています。
「恐らく,戦前まではプライベートな世界の中に文化の表現があったと思うのです。今,われわれはパブリックな表現というものを追求すべきなんだろうけれども,パブリックという概念自体を持ち得てない。」(p213)
「今まで個人が支えてきたものが公共に渡されて,それをみんなが共有する。それを「パブリック」と言って良いのかどうかわかりませんが,新しい「共有する空間」が生まれてくる可能性が底にあると思う。」(p221)
これは,なかなか面白い着眼点だと思うのですよ。鈴木氏は,山縣有朋がご贔屓にした小川治兵衛の作庭を取り上げて,前半の引用部分のような結論を引き出しているのですが,これを読んであっと思いましたね。第二次世界大戦以前の,華族や素封家,名望家による私立図書館というものも,また小川治兵衛の庭と同じような存在だったのではないかと。プライベートな空間で育まれた「文化」が,パブリックな空間に押し出されて共有される存在になったのではないかと。ひょっとすると,江戸時代末期に少しずつ出現した「前・図書館(pre-library)」もまた,プライベートからパブリックへ,という構造があったのではないか,と(明治以前に「パブリック=公共」という概念が存在しなかったであろうことは承知の上で,少々話を単純化しておりますが)。
と,考えてくると,石井敦の業績に代表される,現在の図書館史における私立図書館の歴史的な位置付け,即ち「過渡期の図書館」という捉え方は,やはり再検討の必要があるのではないかなあ,と。石井敦以来の位置付けは,石井敦とその追随者たちによる,多分に『創られた伝統』ではないかと考えるのです。それは第二次大戦後のこの国における政治的・社会的ニーズには合致した考え方だったのかもしれませんが,冷戦が崩壊して20年以上経過した現在,そろそろ,もう少し複雑な拡がりを捉え直すべきだと思います。
これからの「公」と「私」を考える上で,第二次大戦前のこの国における私立図書館の有り様は,今一度検討・精査を要すると考えますが,如何でしょうか。
追記:
鈴木博之氏には「庭師小川治兵衛とその時代」1-8(「UP」39巻8号から40巻10号にかけて断続的に連載)という小川治兵衛論があります。ご参考までに。
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