その日のこと(2)
(承前)
さて,揺れが収まって最初に考えたことは「どうやってこの建物から出ればいいのかな?」です。J書店の入っている百貨店は数年前に建て替えられた建物なので,この揺れに耐えられたのであれば,これからすぐに倒壊することはあるまいと思ったものの,何しろ9階なので早めに地上に降りたいところ。溜息をひとつふたつついたあと,何とか笑顔を作って周囲を見渡してみると,そこかしこにお客さんが2人3人寄り集まって,今体験したばかりの地震の凄まじさを語り合っているようです。中には座り込んで泣き出してしまった若い女性の背中をさすっている若い男性の姿も。
デジカメは常に持ち歩いていますので,とっさに何枚か写真を撮ります。
ややあって,男性の声が聞こえてきました。
「落ち着いて行動してください! 建物の中は危険ですので,階段を使って建物の外に出ます。誘導しますので,指示に従い,落ち着いて行動してください。」
細部の表現は記憶が曖昧ですが,おおよそこのような意味のことを,店員さんが大きな声でお客さんに指示しています。
「こちらになります。壁が崩れたり天井が落ちたりしているところがありますので,足元に気をつけて階段を降りてください」
お客さんがぞろぞろと階段に向かい,列をなして階段を降りていきます。ひょいっと見ると,女性の店員さんの中にも泣き出している方がいましたが,それでも気丈に階段に向かって手を振って誘導しようとしています。あまりそちらこちらをキョロキョロして迷惑をかけるわけにもいかないわな,とゆっくりとした足取りで一歩一歩階段を降ります。
この写真,自分で撮影しておいてこれまで気がつかなかったのですが,右側に写っている緑色のエプロンの女性はJ書店の店員さんです。この混乱した状況の中,お客さんが歩きやすいように崩落した本を片付けています。その結果が写真手前の積み上げられた本と真ん中に広く開いたスペース,ということだったんですね。
階段で隣りを降りている年配の女性が,どうやら勤務先を随分前にお辞めになられた元教員だったようですが,とうとう声をかけそびれました。
無事に地上に到着したら,何と外は一瞬吹雪いています。どうなることかと1階で待機していたら,すぐに収まったので,取り敢えずクルマを停めてあった駐車場に向かおうかと思い,道路を挟んだ建物に何気なく目をやったら,大きな窓ガラスが路面に落ちて砕け散ってます。
うひゃー,とそれを眺めていたら,いきなり
「せんせい! G.C.W.(仮名)先生じゃないですか!」
驚いたことに,僕が非常勤やってる課程の卒業生が,そのとき同じ百貨店に,買い物に来ていて声をかけてくれたのでした。教え子はおかあさんと一緒だったのでご挨拶し,地震がすごかったねと。
「とにもかくにも,これから勤務先に戻るわ」
「私も先程から勤め先に連絡しようとしているのですが,まったくつながらないんです」
「それは心配。とにかく無事で何より,これからも気をつけてね」
教え子母子と別れて,一路クルマを停めていた駐車場に向かいます。これがまた幸運だったのは,いつも停めている立体駐車場ではなく,このときに限って別の平面駐車場に停めていたことです。結局,この日はいろいろとツイていたようですね。市内の立体駐車場の中には,この地震で建物に被害を受けてすぐにはクルマが動かせなかったところもあるようですから・・・・・・。
続く。
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