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2010/09/02

図書館政策の転回点(この機会を逃したら本当の終わり)

 2010年という年が,日本の図書館業界において,長く記憶に留められる1年になったことは間違いないでしょう。それは日本図書館協会による「認定司書制度」の正式な発足,岡崎市立中央図書館(あるいは三菱電機インフォメーションシステムズ〈MDIS〉)事件(参考。杉谷智宏さんによる労作です),そして高知県立図書館と高知市立図書館の「合築」問題(参考1参考2)によってである,と僕は見ます。この3つの「事件」は,1970年代より今日にいたるまで日本の国家レベルにおける図書館政策の不在,そして図書館業界(そのナショナルセンターであるところの日本図書館協会と,その有力な構成要素である公共図書館系団体である日本図書館研究会図書館問題研究会を中心とする)が推し進めてきた,『市民の図書館』(初版1970年,増補版1976年)というひとつの不磨の大典政策文書に基づく,公共図書館運動の最終的な帰結と破綻を,業界に携わるあらゆる分野のひとが理解できる形で示しています。特に岡崎事件では,このために冤罪被害者まで出してしまう事態に陥ったことについて,まず被害者に謝罪しなければなりません。そして冤罪被害者を出してしまった図書館活動を,あらゆる面から検証し問題点を洗い出し改善すべきところを改善し,図書館業界の失われた信頼を取り戻すことが可能になるであろう図書館政策を打ち出す必要があります。

 今年の「事件」を図書館政策,もしくはその「行き詰まり」から考えたときに見える問題点は,図書館司書による「貸出し」を専門職としての司書におけるあらゆる業務の基本に据えてきた,専門職としての司書を認めさせるための『市民の図書館』の理想としたユートピアに基づく方法論(いわゆる「貸出至上主義」です)が,最終的に否定され崩壊したということが明らかになったということです。1970年代・80年代に図書館司書に求められていた専門職としての技術や手腕は,2010年代に求められているそれとは明らかに異なってきています。70年代・80年代の幸せな成功体験が今や足かせになって,『市民の図書館』を役目を終えた歴史的な政策文書であると捉えることができず,新たな政策文書を提示できないばかりか,『市民の図書館』をバイブルとみなすような人物が日図協の理事長に就いているのが業界の現状です。

 例えば岡崎事件では,岡崎市立中央図書館のサイト【http://www.libra.okazaki.aichi.jp/】【http://www.library.okazaki.aichi.jp/tosho/index.asp】やサポーターのサイト【http://www.libra-sc.jp/】を見ると,実に華やかな図書館活動が展開されていることがよくわかります。そこにはウェブサイトの造作なども含めて,図書館活動としてお手本とすべき点が多々見られます。しかし,斯様に図書館活動が活発で,かつウェブサイトも手際よく利活用している公共図書館が,自ら有している知識を提供するための基盤となる図書館システムとウェブ環境を整備することには無頓着,もしくは不注意であったということ,そのために地域住民に冤罪被害者まで出す事態に陥り,そのことを未だに正しく認識できない状況下にあることは,「貸出し」から出発する専門職論では恐らく解決することのできない,公共図書館と図書館司書の「謎」だと思われても不思議ではないでしょう。この「謎」は,その図書館活動が1970年代から『市民の図書館』で打ち出された政策の延長線にある一方,図書館システムやウェブ環境の整備は,1970年代には想像もできない技術の発達が現在の基盤となっていることに求めることができそうです。

 『市民の図書館』が世に送り出された1970年代と現代の図書館で大きく異なる点は,図書館システムが図書館業界の思惑や理想と関係なく,もはや図書館における整備すべき重要な基盤になってしまっていることです。しかし,『市民の図書館』の影響下にあり続ける「貸出し」から始まる専門職論は現在にいたるまで,図書館運動や図書館活動に比べて目録作成を含めた図書館の基盤整備,ウェブを含めたITの基盤整備を軽視しています。これは業界人において「図書館活動」と「図書館の基盤整備」の,専門職業務としての認知のレベルに断絶があるということを意味しています。本来は基盤の整備なくして,豊かな活動などありえないはずなのですが・・・・・・。

 ここまで岡崎のみならず『市民の図書館』の影響下にある業界人の方法論に,技術的な基盤に対する知識も認識も不十分であったことについて述べてきましたが,こと岡崎市立中央図書館に関する限り,「貸出し」から始まる専門職としての業務に対する倫理感が行き渡っていたかどうか,についても疑義がもたれる状況が発生しています。例えば朝日新聞にて岡崎事件に関する詳細な調査報道記事を執筆した神田大介記者によるツイート【http://twitter.com/kanda_daisuke/status/21720327555】【http://twitter.com/kanda_daisuke/status/21720442492】が伝えるように。僕は業界団体の内規以上の意義を社会的に現状では持ち得ない「図書館の自由」を不磨の大典か錦の御旗のように振り回すことには同調しませんが,あれだけ図書館活動がさかんに見える公共図書館で,令状なしに個人情報が警察権力に提供されたというのは,業界人ならずとも釈然としないのではないでしょうか。

 さらに,これだけ岡崎事件に関する情報が流通してしまっているにもかかわらず,【岡崎市立中央図書館のホームページへの大量アクセスによる障害について】が図書館名で公表されたことは,正直なところ火に油を注ぐ結果になっています。これでは,岡崎事件が一個の岡崎市立中央図書館にとどまらず,すべての館種を含めた図書館業界そのものへの信用に関わる事態に発展することを危惧します。ウェブでの議論を見ていると,その危惧は半ば現実のものとなっているようですが,日図協のメールマガジンが朝日新聞の神田記者執筆記事を黙殺していることからも明らかなように,図書館業界のお偉方には恐らくその危機感は皆無なのでしょう。ついでに申し上げておきますが,岡崎市立中央図書館の「釈明」は公共図書館の信用のみならず,地方自治体の行政組織そのものに対する不信の種になりつつあることが【http://b.hatena.ne.jp/entry/www.library.okazaki.aichi.jp/tosho/about/files/20100901.html】に寄せられたコメント見れば一目瞭然なのですが,あくまでも公共図書館の直営護持にこだわる(岡崎の場合,カウンターが業務委託であるらしいことは関係ない)お偉方は,図書館政策の不在もしくは行き詰まりを顧みないばかりか,岡崎市立中央図書館における行政組織の機能不全をも同時に黙殺するおつもりでしょうか?

 現状,「貸出し」から始まる専門職としての図書館司書には欠陥,とまで言わなくとも現状の役割に対して知識の偏在があります。ではこの偏在を改善するために図書館業界は,どのような思想に基づいて,どのような政策を打ち出し,どのような取り組みを展開していけば,よりよい方向に発展性を見出し,専門職としての図書館司書を現在求められている,あるいは求められるように市民に感じさせる存在に近づけるのでしょうか。
 それを探し出し,きちんとした形で提示し実現することが,岡崎事件で失われた図書館業界の信用の回復につながるのです・・・・・・。

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高知新聞(9/19掲載)に書いてた新図書館の意見を送る
メールのアドレスが
間違っています。ig.jpではなくlg.jpです。

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