たったひとつの冴えたやりかた
タイトルは釣りです(^^;).このエントリーはSFともJames Tiptree, Jr.とも何の関係もありませんごめんなさいm(_ _)m
「みんなの図書館」2月号について,ようやく時間ができたのでまとめる.しかし,「特集にあたって」の最初の3行を読んだだけで頭が痛くなった.例えば,「正規の司書」とはどのような司書を指すのか? 司書有資格者なら「正規の司書」? 行政から「司書」の辞令をもらったのが「正規の司書」なら資格はいらん(^^;).正直,この「正規の司書」という言い回しは,何かのプロパガンダとしか思えない.
そもそも,座談会という企画自体が「ず・ぼん」の二番煎じだー,というのは「特集にあたって」を書いているのが「ず・ぼん」の編集者だから,それはそれでいいのか(^^;).
それにしてもこの座談会,誰に読ませたくて企画したのかな? 公共図書館の館長? 管理職? 住民/来館者じゃないことは間違いない.いま,住民/来館者が知りたいこと,必要なことは,この座談会の内容にあるとは思えない.正直,ありえない.
しかし,こともあろうに「みんなの図書館」で「忠誠心」なんて単語を見る日が来るとは! 僕は組織に対する忠誠心なぞ,愛国心からして持った記憶が無いので,この辺の話はまったく理解できない.いま属している組織にも忠誠心なんか無いですよ.空気に忠誠が誓えるわけがないでしょう(^^;).「生きがい」とか「挙手」とか,気持ち悪いだけ.地域とか自治体とか,そんな大きな話じゃなくて,目の前の来館者が感謝してくれればそれでいいんですけど.それが結果として来館者の知見に貢献,来館者のいる地域に貢献になればいいのであって.あまりに綺麗事で気持が悪い.おまけに「評価」だって? 労働組合,というか自治労ってそーゆうのおキライだったんじゃ? そもそも有能無能を誰が評定するんですか.業界団体が評価しなきゃ,というのは正論だけど,その結果が日図協の専門職員認定制度というお粗末な代物で,非常勤の職員は評価対象からはじきとばされているんですけど,それについては最後まで言及がないわけで.
p29からはなかなかいいことを言ってるけど,「プライベートを削ってまで」云々は余計.図書館の勉強だけしていれば図書館員が務まる時代じゃないですよ,いまは.趣味を充実させることが図書館勤務にフィードバックすることだってあるんですから(実体験).でも,それでも趣味を充実させるときに,いずれ仕事に生かそうなんて,考えたことも無い(^^;).そんな邪な気持ちで音楽聴いたり,お城に登ったりできますか?
p35にある公務員制度に関する指摘,実はキモなんだけど,公務員の方はスルー気味なのが残念.制度としての「専門職」が公共図書館の制度として確立されていないが故に,指定管理者に優位な点もある,ということもスルー.ああ,だからやっぱり制度の話と雇用の話が混在しているから見通しが効かないんだ,この座談会.確かに鶏と卵の関係だけど,これはある程度切り分けないと「清潔さ」に欠けると思う.
ついでに,いつも図書館系の委託と雇用について語られる文脈で,他業種の状況について語られることはないのが不思議.たまたま僕は身内に非常勤の保育士がいるけど,幼稚園・保育所の雇用条件がひどいことは,図書館司書が問題視される以前から労働組合にはわかっていたはず.また,地方自治体による文化ホール,体育館などの委託・指定管理について図書館系の媒体で公共図書館との比較がなされたことも,ほとんどないのではないか.
全体を通して,この座談会に感じる違和感の原因の一つは,これ出席者がひとり除いて首都圏のひとなんだよね.首都圏以外の出席者がいないから,すごく狭い範囲(有り体に言えば内輪)でしか通じない話のオンパレードになってる.立場は違えども,考え方がほぼ同質(委託は偽装請負の巣窟.指定管理者は便法として採用している.直営最高!)の出席者が濃密な対話を重ねているので,読後の好悪がはっきり別れると思いますね.首都圏以外,九州や東海,東北などの関係者が座談会に参加していたら,あるいは異なる視点からの問題提起があったかもしれないけど,恐らく「特集にあたって」を書いたひとが,ある特定の考え方で座談会をまとめたかったのでしょう.
僕は出席者に比べて考え方が斜めなので,出席者の問題意識は理解できるけれど賛同はいたしかねる,という感じです.考え方はよーくわかったけど,広がり/包容力に欠ける.これからの図書館運動の舵取りについて「たったひとつの冴えたやりかた」しか認めない,これで支持を拡大しようというのは,現状かなり難しいと思うし,そもそもこの座談会の隠された主題であろう「たったひとつの冴えたやりかた」が本当に正しい選択なのかどうか,を疑おうともしない.しかもその「たったひとつの冴えたやりかた」は現状,ほとんど採用される当てが無い.にもかかわらず,虚偽に反論する真実の狂信家,というポーズはみなさん絶対に崩さない(sigh).
思うにこの座談会,カットされた箇所があちこちにあって,そこで交わされた雑談(!)の方が正鵠をついているんじゃないかな,ひょっとして?
もうひとつ,新さんの論文.これ自体は取り立てて批判するにはあたらないし,優れた論考だと思うのだけど,僕が依って立つバイアスを振り払っても,何か「場違い」な印象を受ける.新さんは,例えば日図協の専門職員認定制度の失敗について,どう考えているんでしょう?
僕としては,常勤が職場で,より確固たる地位を築くことのを助ける前に,非常勤がより高い給料で採用されることを助けるためにこそ,日図協の専門職員認定制度が活用できるように,制度設計を根底からやり直すべきだと思うのだが.現下の状況において常勤のための制度を積み上げることが,どれほど業界にとって危険なことか,日図協の現理事長に重用されているメンバーには理解出来ているのかどうか多分に疑わしい.しかもあの認定制度,常勤でも公共図書館の常勤職員以外は員数外とされているわけで,実に身勝手な制度設計だと言わざるを得ないところ.それでも,あの認定制度を是とする方のご意見を,是非伺いたい.あれが職員問題に対する「たったひとつの冴えたやりかた」だとでも言うのかしらん?
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コメント
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すごく時間がたってからのコメントですいません。
「場違い」というのは『みんなの図書館』2月号の中で「場違い」という
意味か、現下の情勢において「場違い」という意味か取りにくいので
すが、後者だったとして私は抽象的で「場違い」な小論を書くのが趣味
ですのでそこはお許しいただければと思います。
さて、「たったひとつの冴えたやり方」があったら楽なのですが、
特定の政策や勢力や方針で何とかなるほどこの問題は簡単ではない
と考えます。荒川区非常勤労組の岩渕さんも「この問題にウルトラCは
ない」とおっしゃっていました。また実践面では一致する部分があるとし
ても、たとえば私と橋本さんの職員制度に関する考え方には相応の隔
りがあると思います。
まあ、「たったひとつの冴えたやり方」はろくでもないというのが、ティプ
トリーの示すところです。
日図協の専門職認定制度については、私は非正規職員でも認定を
受けることができるようにすべきだと考えています。座談会参加者も
それについては一致しているのではないかと推察します。
それから大学図書館員やその他専門図書館員なども受験可能とすべ
きだとの論ももっともだと思いますが、これまでの公共図書館員主体の
チームでは大学図書館職員の専門性認定プログラムをつくることは
(能力の面からも)不可能でしょうから、大学図書館の方が協会の中に
独立のチームをつくって認定制度をつくった方がよいのではないかと
個人的には考えます。
ちなみに、私は専門職認定制度のような取り組みについては、進め
ることには反対しないが、その実効性はやや疑問であると考えていま
す。これは非正規職員の待遇改善の点でも同様です。現在、
TRCの募集で、無資格840円、司書資格860円という現状を見るに、
上級司書保有だけでどうにかなるものではないと思います。それよりも
荒川のように労使合意で処遇改善をした方が実効性があるでしょう。
公務員制度はいずれ自壊すると思いますが、どう壊れるかが問題です。
直営正規司書がさっさと死滅すれば、非正規職員の処遇が上がるという
わけではありませんから、現状における制度のとりあえずの整合性を
どうつくるのかということと、処遇改善の運動との両方が必要と考えます。
長文、失礼しました。
投稿: 新出 | 2010/02/25 19:40
>>新出 さん
コメントありがとうございました。昨日(3月6日)締切の原稿にかまけてお返事が遅くなりました。
特に反論,というほどではないのですが,2点ほど。
日図協の専門職認定制度は,第3次の検討委員会までは館種横断的に認定を出すような方向性だったような記憶があるのですが,記憶違いだったでしょうか? 印象では,第4次の検討委員会にいたって方針が大きく変わったようなところがあるのですが。こーゆうことを言うとお叱りを受けそうですが,理事長が竹内さんから塩見さんに代わったことで,何らかの力学が働いたんじゃないか,という疑いを拭えずにおります。先だって実施された事前試行の際の書類に,大学図書館や専門図書館での業務経験を書く欄に「図書館類似業務」というタイトルが付いていたときは,さすがに仰天しました(^^;)。
それから,指定管理者に限らず非常勤勤務の待遇については,自分が司書養成の片棒を担いでいることもあって,内心忸怩たるものを抱えています。が,それは例えば幼稚園教諭・保育士の分野では公共図書館以前から問題視されてきたことであり(僕の知る限り,15年前には既に疑問視されていたかと),誰かが言ってた「図書館には官製ワーキングプアの問題がすべてある」という状況は,図書館だけを取り上げればそのとおりでしょうが,他の分野の雇用をさておいても,という話でもないと思います。
業務委託にしても,これは随分前から同じことを繰り返し言っているのですが,文化ホールや体育館が業務委託されたとき,公共図書館業界は声をあげたのか,という疑念があります。他の部署を生贄にするつもりが公共図書館業界になかったのかどうか。
そのあたり,さすがに最近は風向きが変わってきたのか,「みんなの図書館」3月号に橋本さんの報告と指摘が掲載されたのは評価できるところです。個人的に公共図書館の「横並び」は好みませんが,同一の労働に同一の待遇は求められるべきでしょう(そのあたりからも,先日の「ともんけんウィークリー」に掲載された「いつか毛玉を吐く日」というエントリーは酷いものです。あの筆者は非常勤職員を何だと思っているんだか)。
図書館に限らず,指定管理者が専門職制の確立に向かわず,人件費の削減に重点が置かれているうちは,図書館には辛い時代が続くんでしょう(sigh)。恐らく,何らかの形で「揺り戻し」は来ると思うのですが,その「揺り戻し」がどのような形を取るのか,そこまで誰が持ちこたえられるか。「貸出し」は早晩ダメになりますが,せめて「場所としての図書館」が揺り戻しが来るまで持ちこたえることを信じています。
投稿: G.C.W. | 2010/03/07 21:23