朝日新聞の「公共図書館」への理解度
6月に入って,相次いで掲載された【光る本棚・コンシェルジュ…図書館を変える民間委託】【万引き対策に電子タグ構想】という2つの記事で,公共図書館業界(特に指定管理者・委託反対の直営護持派)から総スカンを食っているらしい(^^;)朝日新聞ですが,正直なところ,朝日新聞の公共図書館への理解度は10年以上前からこの程度じゃないかと思うところがあります.その昔,1997年6月1日(これも6月か!)に掲載された連載「列島再見 分権の足音」という記事のことを,みんなすっかり忘れているんじゃないでしょうか.以下に当該記事の公共図書館に関する部分を引いてみましょう.
いったい,「朝日新聞」という媒体に,公共図書館直営護持派はこの10数年,どんな幻想をいだいていたんでしょうね(sigh).学習能力がないのは諦めているとはいえ,記憶力も期待できないとなると,これは連中が支えている(と自負している)「図書館」という機能にも疑義を抱かれかねない危機的な状況なのかもしれません.
地方を縛る「必要規制」
宇都宮市近郊にある小さな町の生涯学習係長(四四)が、東京まで二カ月分のJRの定期券を購入したのは、昨年七月中旬だった。朝七時前に自宅を出て、戻るのは早くても夜七時半。そんな生活を週六日続けた。文部省が委嘱している東京の大学で図書館の司書の資格を取るためだ。
受講者百六十人のうち、似た立場の公務員が三分の一も。北海道や九州から来ている人もいた。「出張旅費をもらって来ているから落ちたら大変」。口々にそう話した。
町は、長年の懸案である図書館の建設を計画している。一般会計の一割以上、単年度で約六億円にのぼる大事業だ。国の「縦割り行政」に従って県の生涯学習課に相談、文部省の「公立社会教育施設整備費補助金」を受けることになったが、図書館法は国の補助を受ける場合、「館長に司書の資格がなければならない」と定めている。そこで係長に白羽の矢が立った。
「残った社会教育担当職員は四人。係長が抜けるのは痛いが、やむを得ない。職員総出で乗り切りました」と上司の課長は言う。
係長は十月、司書資格を取った。だが三カ月後、県の知らせにがく然とする。国の歳出削減の一環で、あてにしていた補助制度が九七年度から新規分は廃止になったのだ。「いろいろ苦労したのに……。そもそも国が地方を縛ること自体がおかしい」。計画の見直しを迫られた町の幹部はため息をついた。
(中略)
自治体にそっぽを向かれている点では、図書館建設の補助金も同じだ。毎年、全国で七十から八十の公立図書館ができるが、補助金を使うのは十館前後に減っている。大半は「地域総合整備事業債」(地総債)に向かう。
地総債は、最大で総事業費の九〇%分の発行が認められ、元利償還金の三〇―五五%が交付税算定の基礎に組み込まれるからだ。日本図書館協会などの反対を押し切って文部省が補助制度の廃止を決めたのは、その実態を直視したためだ。
滋賀県近江八幡市に今春完成した市立図書館は、特産の瓦(かわら)を生かした外観が自慢の一つ。「文部省の補助金は金額が少なく、館長資格以外に部屋の面積まで細かな規定がある。そのため思い切った建物にできず、どの町も似た図書館になってしまう。その点、地総債は規制が少なくて使い勝手がいいので、地域の特色が出せる」と担当者は言う。
東京まで通って司書資格を取った係長の町の図書館も地総債を使い、六月に着工する。町民の意見を入れて瓦を乗せた白壁の建物だ。国同様、館長の司書資格を定めた県の補助制度も使うため、夏の経験が無駄だったとは言えないが、「文部省の補助金を使っていれば、つまらない図書館になっていたかもしれない」という考えが頭をよぎるという。
少しずつ崩れつつある「国の縛り」。それは一面では、地方が自由に使える財源の確保を求める動きでもある。
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