ある書店の閉店
(注:3月4日一部改稿)
3月中は充電するつもりでいた(^^;)のですが,さすがにこれは気になりまして.
【asahi.com:全国初の公設書店「わかば」が閉店へ-マイタウン大分】
この書店は,出版文化産業振興財団(JPIC)による地域読書環境整備事業のトップを切って,1992年5月に旧・耶馬溪町の町立書店として開店したものです.当時,耶馬溪町には公共図書館も書店も無く,JPICのモデル事業の一環として公営書店が開設されました.JPIC自体,1991年3月に旧・通商産業省による生涯学習振興の動きを受けて出版業界が設立したばかりで,同じく1992年10月には岩手県三陸町でも町営書店「ブックワールド椿」の開店に関わり,書店経営のノウハウなどを提供したと伝えられています(参考:朝日新聞東京版夕刊1992年11月7日付「本の過疎に悩む町村 町営書店開設し対応も(スペクトル)」,「生涯学習政策における図書館関連事業--出版文化産業振興財団の事業をめぐって」三井幸子[「図書館学会年報」39巻3号,1993.9.]).
開店当時,公共図書館業界関係者の中から,JPICとこの事業に対して猛烈なバッシングが沸き起こったことを記憶しています.「何故,公共図書館ではなく町営書店なのか」「書店は公共図書館の肩代わりにはならない」などと.それが影響したのかどうか,JPICは他に手がけている事業ほどはこの事業を熱心に進めることは無かったようです.当時の図書館業界によるバッシングの記録としては,「町村の図書館 1992年を振り返って」(「図書館雑誌」87巻2号,1993.2.)や「図書館問題研究会第40回全国大会基調報告(案)」(「みんなの図書館」194号,1993.7.)がありますので,お時間のある方はどうぞ(ちなみに前掲三井論文の注30に記載されている巻号データは誤りで,「1993.7」が正しい).面白いのは,朝日新聞1992年11月7日の記事で日本図書館協会の事務局長(当時)・栗原均氏が
とコメントしていること(強調部分は引用者による).今更ながら,栗原氏のタヌキ振りには舌を巻くわ(^^;).
「財政力の強弱より、行政としての考え方が問われているのではないか。文化行政のあり方としては図書館の設置が基礎的な条件。町村だけにそれを押し付けるのではなく、県や国の積極的な対応が必要だ」
あれから15年以上の歳月が過ぎ,何時の間にか耶馬溪町にも公共図書館が出来たようですが(「図書館雑誌」か『日本の図書館』を調べれば設置年がわかるのかな?),そのうち中津市・本耶馬溪町・三光村・山国村との平成の大合併で中津市に併合されたのちは,継子扱いをされたのか,朝日の記事に拠れば惨憺たる状態の中にその歴史を閉じることになったようです.ただ,よくわからないのは,中津市立耶馬溪図書館が図書館サイトの説明に拠れば「オープンして5年目の新しい建物なので、比較的所蔵資料が新しいことが自慢の図書館」とあることで,朝日の記事にある「開店後の数年間は、図書館にも本を納めるなどして」という記述と,いささか齟齬を来たしていることです.朝日の記事に出て来る「図書館」が耶馬溪町の図書館なのか,それとも隣りの本耶馬溪町の図書館(1983年開館)だったのか,大分に土地勘も情報源も無い当方には調べる術とて思いつきませんが.何故か中津市立図書館のサイトでは,耶馬溪図書館のみ略年表が付いていないし_| ̄|○.
取り敢えず,今は1992年当時に旧・耶馬溪町とJPICを非難した方々の感想が知りたいと思うところです.
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