此れ臣の未だ解せざるの一なり
矢祭もったいない図書館の成功を受けて,あちこちの公共図書館もしくは文庫的な施設で,本の寄贈を受けて資料を充実させようという動きが見られるようです.今年に入ってからでも(最初の2つは同じ福島県中島村の記事ですが),
【図書寄贈呼び掛け 中島の文化複合施設 - 福島民報 | 福島のニュース】
【中島村:「読んだ本、寄贈を」 新図書室の収蔵に余裕 /福島 - 毎日jp(毎日新聞)】
【神戸新聞|社会|絵本は捨てないで 全蔵書寄贈の図書館開設へ 明石市】
【東京新聞:空き店舗に絵本図書館 親子連れ気軽に利用 壬生の商店街 『蘭学童夢館』 蔵書500冊は町民が提供:栃木(TOKYO Web)】
これだけ見つかります.また,多少毛色は異なりますが,このようなものもあります.
【京都新聞電子版 - 「かえる文庫」が好評 左京 旧堰源小・中校舎】(学校統合後の廃校の蔵書を譲り受けての開館)
しかし,どうも「寄贈による蔵書構築」というのは,いろいろな理由からか,玄人筋の評判がいまひとつのようです.それも公共図書館業界だけではなく,著作権をフィールドにしている方々からも受けが悪い.「著作権ドロボー」と声高に叫んだヒトの意見はわからないでもありませんが,以前三田誠広辺りが主張していた「消尽しない譲渡権」に反対の立場をとる方々からの,矢祭への反感というのは,ちょっと解せないものがあります.正直,拠って立つところが違うのか,と思うしかありませんが,残念なことです.
そういえば,矢祭町が3億円かけて建物を整備した,その3億円が地方債の一種を活用したものだったらしいことに目をつけて「3億円あれば図書館を新築できる」だの「3億で本を買え」という批判も聞きますが,まず建築を知らない人間のたわごとですね.概算ですが,10万冊を開架で並べられる図書館建築は新築で25億はかかるそうです.3億じゃ逆立ちしても立ちません.某市で潰れた百貨店の建物を公共図書館に転用したら,という意見が通らなかったのも,図書館建築というものが特殊な内部構造を必要とするうえに,書籍と書架を並べても建物が崩壊しないだけの強度が必要だったため,断念したらしいですし.また,「3億で本を買え」と言ったヒトは,買った本を何処に並べておくつもりなのでしょう.露営地にでも置いておこうというのでしょうかね(^^;).
矢祭に関して言えば,もったいない図書館に近接するJR水郡線の東館駅を改造するという手も素敵だったかもしれませんが(^^;)<<ここ「鉄」入ってますね,すみません.
そんなことを考えている折もおり,10日ほど前の河北新報にこんな記事が載りました.
【河北新報ニュース レコード文化後世に 天童オルゴール博物館が収集活動】(閲覧には無料の会員登録・・・は不要になるのかな)
この記事を見て,あれ,何処かの自治体で以前,レコードを寄贈で収集していたはずだぞ,と記憶の糸をたどってみたら,〈「レ・コード」と「音楽」「競走馬」のまち〉を標榜している北海道新冠町にありました.
CDの普及などで廃れつつあるレコード文化を後世に残そうと、山形県天童市の天童オルゴール博物館(菅野昭義館長)が、レコードの収集活動を行っている。アナログならではの、優しい音質を楽しめるオーディオルームも完備。同館は「倉庫などに眠っているレコードがあれば、譲ってほしい」と寄贈を呼び掛けている。
レ・コード館のレコードの収集(寄贈)についてに曰く
こちらを見ると,元は町内の音楽サークルの発案が「ふるさと創成基金」を利用することによって具体化したものだったんですね.
新冠町は、アナログレコードを「20世紀の音楽文化を記録した歴史遺産」と位置づけて、これを後世に継承するため、平成3年度から「レコード&音楽によるまちづくり」をすすめており、平成9年6月には「レ・コード館」を建設し、レコード文化の拠点施設・レコード100万枚をスローガンとして全国に情報発信をしてまいりました。
これまで全国から寄贈されましたレコードは、695,234枚にのぼり、収集施設設備の不足により、平成15年から収集休止を余儀なくしていたところです(以下略)
で,「此れ臣の未だ解せざるの一なり」というのは,矢祭やその二匹目のドジョウを批判する方々は,レコードなら寄贈によって収集しても構わないのかい,という点です.なるほど,レ・コード館は公共図書館じゃない,「新冠町聴体験文化交流館条例」に基づく社会教育施設だから,性格が違うんだというご意見はごもっともです.また,レコードは既にほとんど生産されておらず,その保存は焦眉の急である,というのもわかりますよ.でも,ここもあくまで「寄贈」による収集が基本で,買取はしていないのですね.その気になれば,まだまだ中古レコード市場というのは存在するのですから,購入による収集だって構わないわけじゃないですか.それを,レコードは寄贈OKで書籍は寄贈による収集は不可なり,とする理由は何処にあるんです? 書籍だって絶版だの品切れだので新刊書店にて入手不能なもの(古書店が頼り)はゴマンとあるのですよ.予算が無ければ寄贈に頼る以外に,どのような収集方法があるのでしょうか?
何方か,明確なお答えをお持ちの方,是非コメントください.
« 垂直構造・水平構造 | トップページ | ショパン/幻想曲 »
「図書館系」カテゴリの記事
- 小手調べ(2009.03.15)
- 「土佐派」の裏切り(^^;)(2009.03.07)
- 同床異夢(2009.03.02)
- 官尊民卑に弄ばれる「図書館の自由」(2009.02.15)
- レファレンス再考:インフォメーションとインテリジェンス(2009.02.14)
この記事へのコメントは終了しました。
トラックバック
この記事へのトラックバック一覧です: 此れ臣の未だ解せざるの一なり:
» 政府と寄贈型図書館モデル・迷考 [図書館員の愛弟子]
さて次。「煙に巻くようなつぶやき」。 以下の会話自体が、寄贈型図書館論者と著作 [続きを読む]
» すれ違い・めぐり合い [愚智提衡而立治之至也]
【愚智提衡而立治之至也: 此れ臣の未だ解せざるの一なり】にブクマ(【はてなブッ [続きを読む]
コメント