『枢密院議長の日記』
久し振りに,読了本の感想など.
『闘う皇族』(浅見雅男著/角川選書380/角川書店/2005年10月初版)でも重要な資料として取り上げられていた,司法官僚・宮内官僚として最後は枢密院議長まで務めた倉富勇三郎(1853-1948)が1919(大正8)年から1944(昭和19)年まで297冊にわたって書き継いだ「日記」(現在は国立国会図書館所蔵)を,佐野眞一が約7年かけて読み込んだ箇所(大正11年,12年とその他一部分)について,あれやこれやとツッコミを入れているのが本書である.
7年かけても,その一部分しか読めなかった「倉富日記」の読みづらさを味わいたい方はこちらをどうぞ.この文字に,よく7年も付き合ったものだと,その労苦には心からの敬意を捧げる.倉富の親戚筋だった広津和郎や,みすず書房の小尾俊人も挫折したという曰くつきの難物を,限られた部分とは言え,ここまで面白い(!)読み物に仕立て上げることができただけでも,佐野眞一とその協力者たちの業績は偉とするに足りる.恐らく,今後も利用する研究者こそ存在すれども「倉富日記」の全文が解読・刊行されることはまずあるまいから,この本は末永く「倉富日記」の入門・解説書として第一に挙げられれることになるだろう.
ただしこの本,『枢密院議長の日記』と題されているものの,実際に枢密院議長(1926-1934)を務めた頃の日記を扱った箇所は,それがロンドン軍縮条約(倉富には外交と軍事は不向きだったと思しい)を主に取り扱っていることもあっていささか精彩を欠く嫌いが無きにしも非ずで,むしろ皇族,華族連中の私的なスキャンダルを取り繕うことに懸命な宮内官僚としての倉富が描かれている第三章から第六章が無類に面白い.第一章で「宮中某重大事件」も扱っているけど,これは上記浅見著の方に一日の長があるようだ(だからなのか,第一章では浅見著と重複する事象が扱われているのに本章内に浅見の名前も書名も出て来ない[巻末の参考文献には挙げられているが]のが,倉富が主人公であるだけに何やら微笑ましい).
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