ロッシーニ/スターバト・マーテル
ロッシーニ/スターバト・マーテル@マルクス・クリード/ベルリン古楽アカデミー(ハルモニア・ムンディ・フランス:HMA1951693)
1999年3月の録音.この作品の古楽派による演奏は初めて聴いたが,声楽を前面に立てた風通しのいい音楽作りで好感が持てる.
ロッシーニ(1792-1868)は1829年,37歳で「ウィリアム・テル」を作曲した後はオペラの筆を折り,フランス政府から年金をもらいながら悠然と暮らしながら,気ままに手すさびのように作曲を続けた.
この「スターバト・マーテル」はロッシーニ49歳の,1841年に完成した作品.元々は1831年末に,ある友人に依頼された「スターバト・マーテル」がロッシーニの病気で中絶してしまい,続きを別の作曲家に依頼して体裁を整えたもの.その合作版を依頼した友人は自分が仕えていた協会の僧院長にそれを献呈した.ところがその僧院長が亡くなると,献呈された楽譜はパリの出版者に売り飛ばされてしまい,合作版の形で出版が進められる.それを聞きつけたロッシーニは仰天して,その出版に抗議するとともに別人が作曲していた箇所も自ら作曲しなおすことにして,更に合作版を出そうとした出版者とは別の出版者から楽譜を出版することにした.この出版を巡る争いが法廷闘争にまで発展してしまうのだが,そのため否応無くこの「スターバト・マーテル」への注目度は上がってしまう.久し振りのロッシーニの新作と言うこともあり,そこを目ざとく立ち回るプロデューサーが現れて,1842年1月7日に,パリでこの作品は初演され大成功を収めることになる.
「スターバト・マーテル Stabat Mater」は「悲しみの聖母」と訳される.14世紀の初め頃に成立した,『新約聖書』の「ヨハネ福音書」第19章に述べられる,十字架上のイエス・キリストを仰ぎ見て悲しむ聖母マリアの悲しみを,祈りや慰めの言葉とともに歌う聖歌で,古来多くの作曲家により題材として取り上げられているが,中でもジョヴァンニ・バッティスタ・ペルゴレージの「スターバト・マーテル」は以前取り上げたことがあるが,美しく悲痛な響きが全編を覆う傑作である.ロッシーニはペルゴレージの作品を若い頃に聴いて,自らは「スターバト・マーテル」は書くまいと思ったこともあったらしい.ロッシーニのこの作品は,多分にオペラティックで華やかな作風だが(第2曲のテノール・ソロのアリアなど),厳粛さを必要とする場面では充分に傷ましい音楽を書き分けており,ロッシーニの歌劇以外の作品ではよく演奏されている曲だろうか.
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