マーラー/交響曲第9番
マーラー/交響曲第9番ニ長調@ブルーノ・ワルター/ヴィーン・フィル(HMV/DUTTON:CDEA5005)
1938年1月16日,ヴィーンのムジークフェラインザールでのライヴ録音.第二次世界大戦前夜の,ワルターとヴィーンによる協同作業の,最後の果実である.この録音からわずか2か月後の3月13日,オーストリアはナチス・ドイツに併合され(アンシュルス),アムステルダムに演奏旅行に出ていたワルターはヴィーンに帰還することが出来なくなってしまう.
この時期のワルターの演奏を評して「耽美的」「旋律を嫋嫋と歌い上げる」ということが言われるが,この録音に関する限り,ワルターは相当に切迫した表情付けをこの作品に施しているように思う.何しろ,クレンペラーの手にかかると80分を超え,レヴァインやジュリーニでは演奏時間が90分近くなるこの作品が,なんと70分強で駆け抜けられているのである.第1楽章の冒頭では演奏直前にもかかわらずドタバタと会場がごたついている音がするし,第3楽章など11分を少し超える程度,終楽章に至っては18分少々と,コンドラシンも驚くようなテンポで演奏されている.第3楽章では急激なテンポのアクセルとブレーキの踏み替えが行われるため,アンサンブルが乱れる箇所が1箇所や2箇所に止まらない.
そのような数々の悪条件にも関わらず,この録音が今に至るまで名盤とされているのは,明日にも迫り来るであろう外敵(ナチ)の脅威がもたらしたのであろう,高い使命感と厳しい緊張感のなせる業ゆえ,だったのだろうか.終楽章の高揚は,他のほとんどの録音にも聴くことのない,情感のこもった響きである.
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