手塚治虫とボク
著者のうしおそうじ(鷺巣富雄,1921-2004)は「マグマ大使」や「怪傑ライオン丸」を製作したピープロの社長であり,戦後の児童漫画の躍進を支えた漫画家のひとりでもあった方.晩年に自らの人生で影響を受けたという円谷英二,手塚治虫,山本嘉次郎の伝記三部作を構想したが,円谷英二伝を出版したのち,手塚伝の膨大な原稿を残して急逝する.残された原稿を執筆に協力していた長谷川裕氏が重複を省いて再構成し,出来上がったのがこの本である.
うしおはこの本を執筆するために当時の関係者に取材したそうだが,それにしても随分記憶力のいいひとだったようで,そこここで微に入り細に入り,という感じの記述が目立つ.日本の戦前からのアニメーション界の師弟関係の流れなど,教えられるところが大変多い.福井英一が手塚治虫と険悪な仲だったという話は,僕はこの本で初めて知ったし,例の,虫プロが日本のアニメ制作費を低く設定してしまい後に続くアニメーターが苦労することになった,という話も235ページに登場する.もちろん,手塚伝とは言え,うしお個人の回想録に近いものでもあり,後世の資料批判は免れえぬところではあろうが,うしおの流れるような文体もあって爽快かつしんみりとした読後感を残す,いい本だと思う.
うしおが構想していたという山本嘉次郎伝も読みたかったけれども,この本でもところどころに登場する馬場のぼるの伝記もうしおに書いて欲しかったな,と思うのは僕だけだろうか.
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