「みんなの図書館」まとめ読み
今年に入ってからの図書館問題研究会の会誌「みんなの図書館」は,いまの公共図書館業界が落ち込んでいる隘路を様々な形で露わにしているという点で,非常に興味深いところがあります(^^;).
例えば3月号の特集は『「無料の原則」から公共性を問い直す』でしたが,これは論題の立て方がおかしい.公共図書館があって社会が成り立っているのではなく,社会(就中民主制を標榜する自由主義社会)が成立するためにも公共図書館に「無料の原則」が必要なのですから,本来の論題は『公共性から「無料の原則」を問い直す』でなければならないところです.このあたり,公共図書館が「図書館」の最終進化形であり,世界のすべてが公共図書館に収斂していくという図書館原理主義に拠って立つ図問研の限界を示しているところでしょう.
4月号の特集「大阪の図書館」では大阪府下の公共図書館の現状と問題点を紹介.現場の現状を紹介していただくのは有意義なことではありますが,ある「現場」で有効な事業が,他の現場でも有効に機能すると,紹介者が考えているとしたらちょっとどうなのかな,と思いますね.40年以上にわたって二言目には「現場」「現場」とおっしゃられてきた方々は,現場にも千差万別があるとは本当に気付いていなかったのかどうか.それとも「運動」と「実践」は違うとおっしゃりたいのか.でも確か当事者は,我々の述べていることは「運動」論ではない「理論」だ,と言っていたはずで,このあたりどうにも整合性が破綻しているんじゃないでしょうか.
また,ある指定管理者反対運動を紹介している文章では,60年安保の時代から変わらぬ「運動」を信条を変えようとしないまま,如何に現在の住民意識との折り合いをつけていくのか,その苦労が綴られています.指定管理者による委託制度が良いことづくめだとも悪の枢軸だとも僕は思いませんが,少なくとも数年前に大阪府下の某公共図書館で発覚した「いじめ問題」(その公共図書館は正規職員がみな司書資格を有していたという)に頬かむりをしたままで,指定管理者反対運動のみをクローズアップしていくのは,正直気持ちが悪いですね.公務員図書館司書の側に,本当に反省すべき点が無い,公共図書館業界はがこれまで行ってきたことがすべて正しかったのか,その検証は誰がすべきなのでしょう?
これを書きながら,あるひと(これ,あなたにとっては残念でしょうが僕の捏造(^^;)じゃないですよん>>【図書館屋の雑記帳】クン)は日本図書館研究会読書調査研究グループによる貸出至上主義の論理を「排除の論理」「如何にも関西のお役人が考えそうなこと」と評していたことを思い出しました.「排除の論理」という言葉から,何度も繰り返される大阪市のホームレス排除騒動を連想してはいけませんか?
そこで5月号ですが,特集は「図書館は何をするところか-地域の自立と図書館のあり方」.先日,勤務先のオリエンテーション(実態はガイダンス)で同じような話題を話してきたばかりで(^^;),この季節みんな同じことを考えるのだな,と思うとちょっと面白いですね.特集記事は2本だけですが,中でも「持続可能な図書館を求めて」(渡部幹雄)はなかなかですよ.まさか「みんなの図書館」に5月号34頁から(長いので引用はパス.興味のある方は是非全文を読んでください)のような貸出至上主義を過去のものとする文章が載る時代が来るとは,僕が図問研中央といささか関わりを持った10数年前には考えられなかったことですから.渡部氏は公共図書館の現場に長く携わってきた方のはずですので,こちらの受けた衝撃は「みんなの図書館」編集部が考えていた以上(^^;)のものでしたよ.同じことを1990年代前半からずっと考えてきた僕の発想は,間違ってはいなかったようですが机の上での考えは,バブル全盛の当時の時代相では早すぎた上に,他者に受け入れてもらうにはよく練られていなかったのでしょう.
5月号の最後の方に第34回東北集会・第33回研究集会に関する短報がありましたが,矢祭もったいない図書館について触れた箇所があります.「3億あれば単独の図書館ができた」云々とありますが,ホントに3億円でゼロから公共図書館が出来ると考えているんでしょうか,この短報書いた方は? 大学図書館に勤める僕の狭い見聞でも,図書館用にまともな建物建てようと思ったら建築だけで10億円は下らないらしいですよ.本は重いので一般的なビルを建てるよりも建物全体,特に床の強度を増さなければいけないのだそうで.それに特注(もしくはそれに近い受注生産)の調度品や図書管理システムの導入費用を考えたら,3億あればまともな公共図書館が建つというのは少々お粗末な認識じゃないでしょうか.そういう意味でも矢祭町は「上手くやったな」と,僕の知人が羨ましがっていましたよ(^^;).これも「現場」「現場」と言いながら,実はある「現場」での実践がすべての現場に通じると信じてしまう,現場主義者の陥りがちな思考法を示していると考えます.
ところで,これから「みんなの図書館」に載るであろう,矢祭町もったいない図書館「糾弾訪問調査の記」が本当に楽しみです(^^;).訪問された方はどうやらこのblogまで調べ上げているようですから,図問研(≒図書館原理主義)に都合よく事実を解釈して訪問記を書き上げるようなことはよもやあるまいな,と調査者の良心と良識を信じています.同じ図書館業界に籍を置くものとして.
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