夢と魅惑の全体主義
「通説」に対して説得力のある異議を常に唱える井上章一の仕事は好きで,本もなるべく読むようにしているつもりだが,戦前の建築に関するものは久し振りのような気がする.この本の中で触れられている『アート・キッチュ・ジャパネスク』(青土社,1987年初版)(改訂改題されて『戦時下日本の建築』[朝日新聞社,1995年].僕はこちらを既読)以来だろうか.
昭和初期までの日本建築には何かと興味があって,僕の旅が寺社仏閣名所旧跡中心の「元気な老人の旅」(まるしー秋月りす)になるのはその故が大きい(^^;)のだが,中でも西洋建築が本格的に流入してきてから,明治以降昭和初期に至るまでの日本建築には,その造形に限らず多大の興味を抱いている.何しろ公共図書館の歴史にも係わってくる「近代」という言葉/概念が,学術的にきちんとした意味を持って使われているのは建築史を以って代表とするわけだから.
話が逸れた(^^;).ムソリーニ,ヒトラー,スターリン,そして中共が壮大な建築物を以って自らのアイデンティティを誇示した一方で,日本の全体主義はあくまでも「戦時体制」を貫徹するためのもので,建築もまた官庁街でさえバラックでよしとするような,発想の全く違う代物であった,というのがこの本で井上の提示する主張である.必ずしも一次資料に支えられたものではない(と当人も時々断っている)ものの,説得力に富む主張だと思う.
それにしても,当時の日本の当局者は官庁街における「耐火」ということをどれほど真剣に考えていたのだろう.
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