少年事件報道を廻る日図協の対応を考える
さて,日本図書館協会がJLAメールマガジン320号(2006年9月13日発行)にて,山口県周南市で発生した高専生殺人事件に関する新聞記事の閲覧制限を廻る一連の問題について出したコメントが公表されました.
正直なところ,これは「丸投げ」同然のコメントでして,1997年の「FOCUS」一件からの流れに置いて見ればmatsuさんが「不可解」と評するのは無理の無い内容だと思います.特に,中程にあるナカグロであらわされた項目のうち1,3,5番目は明らかに整合性を欠いてます.
また,ナカグロの2番目は,「FOCUS」一件における「見解」が日図協の指示であると公共図書館や一般市民に誤解されたことが念頭にあるのだろうと思われます(翌年の「文藝春秋」「新潮45」の際は「参考意見」にしたのはそのためだと,この「参考意見」に書いてある).日図協の「見解」には公共図書館を拘束する根拠は,倫理的にはともかく法的には無いと思われるので,「見解」を指示だと受け止められるのは誤りだ,というのは確かにその通りなのですが,それならそれでもう少し明確な形で軌道修正をする必要があったと思いますが,どんなものでしょうか?
「文藝春秋」一件の際の「各館での主体的な対応を求める」に基づけば,今回の周南市の件では閲覧制限をしないという選択は当然あるわけですし,閲覧制限をしなかった公共図書館の対応が「閲覧制限」に対するバッシング報道に流された結果だ,という批判は,必ずしも当たらないだろうと考えます.「閲覧制限」について,「事なかれ主義による制限じゃないか」あるいは「職員が公共図書館についてよく学んでいないから安易に閲覧制限に走ったのでは」という批判も存在します.
ただし,後者の批判は評価が少々難しいと考えてます.「公共図書館についてよく学んでいなかったから,何もしなかった=閲覧を制限しなかった」というケースが当然考えられるからです.
そうこう考えてみると,「FOCUS」一件以来,少年事件報道を廻る日図協の対応には,何処かズレがあるのではないか,ピントが合ってないのではないか,という印象を受けます.日図協と言えども人間のやることですから,多少のぶれや揺れは止むを得ないだろうとは思いますが,問題の所在を今一度洗いなおす必要があると考えます.
でもって,「新聞報道の協会コメントには、これまでの事案についての状況説明や一般論を混同して記述していることが見受けられ、正確さを欠くところがある」と言うのであれば,正確なコメント(プレスリリース)を出すべきですね.検証できる資料を提示せずに「正確さを欠く」と言われても,評価の仕様が無いでしょうに.
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コメント
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何度もコメントを入れて申し分けありません。ブログを荒らしているような感じもあってこれで最後にします。
日図協のメールマガジンの見解でさらに不可解という感じが強まります。
先に「図書館は司法的判断はしない」といっておきながら、「今回の事案については、当該少年が死亡しており、少年の権利保護の要請は前提を欠いているといえよう。」と言う見解はまさに司法的判断そのものではないですか。
杉浦法相は被疑者の死亡で少年法61条意味がなくなったということではないと公言しています。
確かに読売新聞は死亡は重大な要素としたことは確かです。しかし、他の新聞各社はいまだ実名を公表していないのです。少年の死亡により権利保護の要請は前提を欠いたというのが通説的見解なら、当然にしてマスコミは実名を報道するはずだし、するべきでしょう。
結局、日図協の司法的判断は少数見解でしかないのです。
「図書館が判断したことについて、協会はコメントする立場ではない。」といいながら重大なコメントをなぜするのか。はじめから報道各社にもそのように言うべきであって、せいぜい「図書館は市民の知る自由を守るということを基調に対応をしてもらいたい」ぐらいにしておくべきであったのでは。図書館による検閲なんてことまで言い出すものだから誰もがおかしいと思うでしょう。
図書館界において日図協の信用失墜は重大な危機です。この問題から目をそらさずG.C.Wさんの言われるように、メールマガジンという限られた人への発信ではなく、ホームページを通して、正確なコメントを改めて公表すべきと思います。
投稿: matsu | 2006/09/21 00:00
>>matsuさん
コメントありがとうございます.「荒らし」などとはとんでもないです.いろいろ有意義なコメントをいただくことが出来,僕としても今回の件を考える上で大変ありがたく思っておりますので,ご心配なく.
日図協は今回に限らず,「プレスリリース」など対外的(社会的)な対応に関心が薄すぎると思います.今や業界人だけを考慮していればいい時代じゃ無いのですから,もう少し言葉を吟味した,わかりやすいプレスリリースを,誰が見ても「公式」と思える形で出せないものなのでしょうか? 業界に対してイニシアチブを取っていこうと考えているのであれば,本気で考えて欲しいです.
投稿: G.C.W. | 2006/09/22 20:09