素朴なものを信じて美しく生きた人の話
書物奉行さんが取り上げた『図書館の発見』新版(前川恒雄,石井敦著/日本放送出版協会/2006年1月初版)は出入りの書店に注文出してあるけどまだ届かない.そういえば,初版を読んだ記憶が無いなと思って,勤務先にある『図書館の発見』初版(前川恒雄,石井敦著/NHKブックス194/日本放送出版協会/1973年10月初版)を今日の試験監督の時間を使って読み始めたら,これが結構読ませる.『市民の図書館』よりもこちらの方がいいんじゃなーい,という感じ(^^;).文章表現に持って回ったところが少なく,割合にストレートでスラスラ読めるのは,高度経済成長期の頂点という執筆時期と,著者たちの素朴で直線的な公共図書館進化論と,公共図書館初心者への啓蒙という目的のそれぞれが,絶妙かつ幸福な出会いをした本だと言える.とにかく,文章のそこかしこに希望が満ち満ちている.
さて,新版はどうなっているのかしらん? 書物奉行さんの記事によれば,あまり期待は出来ないようなんだけど.初版の第6章を読むと,前川恒雄が現在の時点でこの本の新版を出そうと考えた気持ちはよくわかる(^^;).第6章で提案したことが全く現実化されてない,どころかむしろ後退している! と思ったのではないだろうか.
ところで,初版の看過できない間違いを1箇所指摘しておく.
「このほか,まだ立憲改進党の中心人物であった小野梓や馬場辰猪なども,共存同衆を組織し「共存文庫」をつくり」(以下略)(初版125頁)
馬場辰猪(1850-1888)は立憲改進党ではなく,自由民権運動家として植木枝盛(1857-1892)と並び称される自由党の中心人物である.
萩原延壽『馬場辰猪』(中公文庫)によれば,馬場と並ぶ共存同衆の中心であった小野梓(1852-1886)ほか多くは改進党に参加したが,「共存同衆」から交詢社へと続く人脈で大隈重信の立憲改進党ではなく,板垣退助の自由党に参加していくのは馬場以外には若干を数えるのみという.
個人的には,僕でもわかる明治史の基本を間違えているのは,歴史を語る著作物としては拙いんじゃないかと思う.
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