ダメな図書館目録の例:補遺その2
(承前)
そんなわけで,NACSIS-CATのデータが各館作成の寄せ集めであることはliblibさんご指摘の通りですが,必ずしもその下敷きが商用MARCであるとは限りません.JPMARCのこともあれば,ゼロから書誌を起こすこともありますし.
むしろ問題は,そうやって出来上がったCATの「品質管理」の体制にあります.
NACSIS-CATの書誌データを修正するのは,例えばWikipediaの記事を修正するようにはいきません.いや,修正するだけなら簡単なのですが,修正の後の手続きがいささか面倒です.例の『萌える法律読本:ディジタル時代の法律篇』のCATデータには2005年7月8日現在で29の所蔵館が登録されていますが,これはこの書誌データがこの29館にダウンロードされていることと,ほぼ同義です.CATのデータを修正したら,(修正の程度によりますが)その内容を29館に連絡しなければいけないのですね.これが大変な作業であることはNACSIS-CATを運営している国立情報学研究所(NII)も認識しており,最近はNIIでも便利なツールを準備してます(こちらとかこちらとか).
この業務連絡が面倒だからと新しい書誌を作ってしまった場合,重複書誌は先着順で残されるのが通例になってまして,後から作成したデータがどれだけ正しく有益であっても,先に作られたダメなデータに所蔵を付け替えなければなりません.これで苦汁を飲まされたことが,G.C.W.氏でさえ一度や二度では(^^;).先着のダメデータもまともなデータに修正されますが,多巻モノで物理単位+シリーズタイトルに作成したデータを1書誌&VOL表示に修正されるのは,検索のためのキーワードが減ってしまうことが多く,利用者からみると「望ましい状態」への修正とは思えません.杓子定規に対応しないと,例外ばかりになってしまって収拾がつかなくなることを恐れているのはわかりますけど,例えばCATにおいて『廣松渉著作集』(岩波書店)が物理単位+シリーズタイトルで作成されているのに『柳田國男全集』(筑摩書房)が1書誌&VOL表示で作成されているのは,いったいどんな原則が働いているのか,現物をいくら眺めても浅学非才の身にはよくわかりません.
ちなみに数年前,とある研修会で聞くとも無く聞こえて来たところによれば,国立大学図書館の目録作成者の中には「私立大学図書館の連中はCATに新規データを作成するんじゃねー」と曰われた方もいらっしゃったそうです.理由は「ろくなデータを作らないから」だそうでした.ところが,昨年度NIIの担当者が講演で明らかにしたところに拠れば,ひとつの書誌が重複して作成された,いわゆる「重複データ」の作成数は国公私立という枠組みとは必ずしも関係なかったとか(^^;).多くのデータを作っているところは重複データも多く作り,データの作成数が少ないところはそれなりに重複データを作っているということです.
ようやく昨年度あたりから,NIIもCATの「品質管理」ということをやかましく言い始めましたが,これはすぐれて制度的な問題であり,NACSIS-CATのシステムを改善すればそれで事が足りるものでもありません.今回,例に出している『萌える法律読本』のような目録データは,目録を作成する上で基盤になっている考え方(大げさに「目録の思想」と書いても構わないと思いますが)が,少なくともG.C.W.氏のそれとは相容れるものでは無い,というところに,品質管理の制度を考える上で困難なところがあるやに思えます.
「図書館」カテゴリの記事
- 【2016年熊本地震】図書館・出版流通関係記事まとめ(2016.04.18)
- 官尊民卑に弄ばれる「図書館の自由」(2009.02.15)
- 講演会のご案内(2008.07.04)
- ICタグの盲点(2008.02.16)
この記事へのコメントは終了しました。
トラックバック
この記事へのトラックバック一覧です: ダメな図書館目録の例:補遺その2:
» ダメな図書館目録の例:補遺その3 [愚智提衡而立治之至也]
(承前) もちろん,書誌コントロールへの取組みというのは必要なことです.国立 [続きを読む]
コメント