「図書館界」56巻3号:その7
取り敢えず,今回で一区切り.これまでの文章に関する補遺など.
塩見昇氏の「公立図書館のあり方を考える」の中に『公立図書館の任務と目標・解説』の改訂に関する箇所(p172-173)がある.相変わらずの根拠に乏しい県立図書館・研究者批判が展開されている箇所だが,ここで言及されている「図書館雑誌」2004年8月号の記事をG.C.W.氏はうっかり読み落としていて(それどころか「図書館雑誌」2004年8月号を読んだ記憶さえ無かった),慌てて封書から出してもいなかった8月号を引っ張り出して当該記事(塩見昇「「公立図書館の任務と目標」および「解説」の改訂作業を終えて」p532-535)を読んでみたのだが,驚いたのは『公立図書館の任務と目標』が『中小レポート』『市民の図書館』を継ぐ「日図協の図書館づくり政策文書」とされていたことであった.これはG.C.W.氏の勉強不足だろうが,『公立図書館の任務と目標』に対してそのような位置付けがなされていることを今まで業界誌等で見聞した記憶は無い.先日,新しく出た改訂版を早速注文した.
「図書館界」編集委員会の出した御題の論点整理に「貸出を重点目標とすることは普遍的に正しい方向性である」(p159)という箇所があって,これに明定義人氏が疑問を呈している(p183).G.C.W.氏もこの表現には引っかかる.文芸作品・哲学作品などにおける評価の浮沈を目の当たりにしているはずの図書館業界から「普遍的に正しい」などという価値判断を含んだ形容が出て来ること自体,この御題の「政治的」「宗教的」偏向を物語るのではないか.
一応,G.C.W.氏なりの御題への回答を.
1番目の『市民の図書館』の歴史的評価.これは1970年代・80年代における公共図書館発展の論理的な裏付を築いた文書であり,高度成長とそれにつづく時代においては有効な方法論を提示していた.しかし,社会・経済状況の変化等により,「貸出」を他のサービスから冠絶した位置に置くその論理と方法論は,ほぼ有効性を失っている.特に専門職論について益するところがないのは,今や致命傷である.
2番目の「貸出中心のサービスを発展させるのか転換させるのか」って,そもそも「転換」という御題の発想がおかしい.『市民の図書館』にも「貸出の基礎のうえにレファレンスサービスが展開される」という意味のことが書いてあるじゃないか.「図書館界」編集委員長は日本図書館研究会読書調査研究グループのドンだが,読書調査研究グループが『市民の図書館』をきちんと継承していないことが,このような箇所に明らかになっている.「貸出」は数ある図書館サービスのひとつにすぎず,「貸出」だけに固執しそれを発展させることが公共図書館の発展である,という発想には,どう考えても無理がある.
3番目については,答えることに意味が無い.
ところで,この誌上討論には「ご意見をお寄せください」ってあるんだけど,諸般の事情により日図研の会員G.C.W.氏が「図書館界」に投稿しても掲載の可能性は皆無だと思われる(^^;)のと,このネタを「図書館界」の閉じた読者だけに読んでもらっても無意味なので,多少なりとも開かれている自分のblogで意見を開陳した次第.
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