「貸出冊数至上主義」
「図書館界」56巻2号(2004年7月)が届く.第45回研究大会のシンポジウムとグループ研究発表の特集号.シンポジウムのテーマは〈図書館のサービス評価を考える〉.図書館におけるサービスの指標ないし評価については,現時点で確立された考え方や手法は無いと考えているので,それに対するG.C.W.氏の感想は特別無い.
むしろ,シンポジウムに続く討議の記録中,公共図書館のサービス評価に関する発表に対するツッコミに読み応えが(^^;).日本図書館研究会読書調査研究グループによる「伊藤理論」を根底に据えた相変わらずの貸出至上主義から,すべてのサービスを貸出に奉仕させることを主眼とした公共図書館のサービス評価の発表に対して,疑問が出されたのを,発表者が懸命にかわそうとしているのが面白い(^^;).
それはさておき,G.C.W.氏が首を捻ったのは,その発表(「どんな図書館を目指してきたか」田井郁久雄著,p62-68)において発表者が触れている「貸出冊数至上主義」(p63)という言葉.この言葉,この発表で初めて見たわ(^^;).一体何時,誰がこの言葉を用いたんだろう.
G.C.W.氏も,業界内にはびこる,ある考え方に対して「貸出至上主義」という言葉を用いて批判したことはある.「貸出至上主義」とは「効率を第一とする要求論に基づく選書論と「貸出」を図書館経営の中軸に据える,日本図書館研究会読書調査研究グループが中心になって展開している理論.数ある公共図書館の機能のひとつに過ぎない「貸出」を公共図書館の最終的な目的と位置付け,他の機能を『貸出』の増加に奉仕させることが公共図書館の発展につながるとする主義主張.そこでは本は『消費財』であって『資料』とは見なされない」主張のことだが,それは上記の定義にあるように,貸出冊数という目に見える数字の大小をあげつらって批判しているのではない.「貸出」という機能を図書館(公共図書館に限定しても構わない)においてどのように定義し,位置付けているかを問うているのであって,「「貸出冊数至上主義」はその言葉自体に矛盾が含まれている」(p63)などと言われて,今まで誰が使ってきたのかわからない出所不明の言葉を非難されても,こちらは何のことだかさっぱり理解できないのである(^^;).
仮想敵を作って批判するのは,馬場俊明氏も昨年だったか「出版ニュース」誌上で行われていたが,どうやら日本図書館研究会に拠る研究者の常套手段であるらしい.しかしその仮想敵の想定は,現状認識に著しく誤りがあり,かつ自らの主張に都合よく矮小化したものであり,残念ながら彼らの主張から説得力を失わせる効力しか持ち得ない手法となっている.このような手法を用いて議論する限り,業界は本当に議論すべき課題を見失い,その言葉は社会を説得する力を失ってしまうことを,もう一度考えてみたほうがいいのではないか.
それにしても,何が何でも「貸出」を公共図書館の最終的な目的にしておきたい努力には頭が下がる.「仮に「貸出だけがすべてではない」と言いたかったのだとしても,「顧客満足度は貸出の数値にも反映される」「顧客満足度を示す大きな要素の一つが貸出の数値だ」というべきではないか」(p64).「アンケート調査の表面に示される利用者の満足度を直接運営に反映させることが,図書館のサービスを本質的に向上させるとは必ずしも言えない」(p67).やれやれ(-_-;).ファンを無視して1リーグ制を遮二無二推進する渡辺恒雄・読売巨人軍オーナー並みの傲岸不遜と言ったところか.そーゆう「公共図書館≒役人の論理」が既に破綻していることがどうしてわからないんだろう.最早,業界人が考えている「理想の公共図書館=貸出至上主義」の傲慢が見放され始めているからこそ,行政がこぞって公共図書館の委託を考えているんだろうに.
公共図書館が顧客の要求を呑む必要が無かった例として「自習室」を持ち出しているが(p67)これもおかしい.公共図書館に対して場所のみを提供するよう求めたものを拒否するのは公共図書館の機能からして当然の責務であり,それと公共図書館に書籍に限らぬ資料・情報の提供を求めることを同一視するのは,筋が通らない.論理の破綻を通り越した,ただの無茶苦茶である.
これから公共図書館の評価を考えるのであれば,「貸出」に依存しない,あるいは「貸出」をone of themと捉えた評価の指標を考えるのが適当であり,業界の理想よりも顧客の求める情報の提供(単なるモノの移動ではなく)を優先した指標が求められるのは,公共図書館の理念から考えても当然のことである.何時まで旧態依然なまま「貸出」にしがみついていれば気が済むのか.
こーゆう発表が罷り通ってしまうところは,さすがに「貸出至上主義」の総本山たる日図研のユニークなところではある.しかし,それを「日図研だから」「ユニークだから」で笑って済ませられる状況に,今の図書館業界はあるのかどうか.
追記:
今日届いていた「図書館界」56巻2号には『未来をつくる図書館』(菅谷明子著/岩波文庫新赤版837/岩波書店/2003年9月初版)の書評が掲載されている.掲載されたそのことに吃驚して「公共図書館業界人がケナしつけているのか」と思って読んでみると,これが書評と言うより好意的な紹介文.しかも書評者は専門図書館のひと(^^;).ナンデスカコレハ.
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